σ結合(sigma bond)とは分子軌道理論によって定義された結合軸を持つ方向性のある共有結合です。2つの原子間で形成される結合の一種で、分子軌道関数による相互作用が結合軸に対して対称形になるのがσ結合の定義になっています。
最も典型的なσ結合は原子のs軌道同士による結合です。水素分子のH-H結合、塩素分子のCl-Cl結合、塩化水素のH-Cl結合などが代表例として挙げられます。また、混成軌道に基づく議論も可能で、有機化学や高分子化学の分野ではsp3混成軌道に基づいてσ結合を考えることが多くなっています。
炭化水素を母骨格とする有機化合物ではsp3混成軌道間でのσ結合が形成されることがよくあります。エチレンのCH3-CH3の結合はσ結合で、炭素のsp3混成軌道同士の相互作用によって結合が形成されています。また、エチレンでは炭素のsp3混成軌道と水素の1s軌道との相互作用による結合もσ結合です。
σ結合は一般的に共有結合の中で最も結合エネルギーが高く、分子の安定性を高めるのに寄与しています。高分子合成では母骨格は炭素間のσ結合によって構築されているのが一般的です。ただ、近年では生分解性の重要性が高まっているため、母骨格にヘテロ原子とのσ結合を含む分解容易な高分子も活発になっています。