共鳴構造(resonance structure)とはポーリングによって提唱された共鳴理論に基づく一連の化学構造で、個々の構造式は極限構造式とも呼ばれています。分子構造をルイス構造式で記述しようとしたときに、複数の書き方ができる場合があります。理論的に正しい構造をしたすべての構造の寄与を加味した平均化により、分子の性質が記述できるというのが共鳴理論の基本です。量子論によって導き出された理論で、シュレディンガー方程式を用いて記述できます。
例えば、ベンゼンはルイス構造式では3つの単結合と3つの二重結合から成る六員環です。1つおきに単結合と二重結合が繰り返すパターンには2通りの記述方法があります。2つの構造式は共鳴構造の関係にあり、6つの炭素に電子が非局在化してエネルギー的に安定な構造となっています。共鳴構造が多数存在するほど電子が非局在化して共鳴安定化エネルギーが大きくなるのが一般的です。
共鳴安定化は不安定な中間体の反応性を制御するのに用いられています。ポリスチレンの合成ではスチレンのラジカル重合の際に、ラジカルがベンジル位に発生するように重合反応が進行します。中間体のベンジル位のラジカルが芳香環との共鳴によって安定化を受けるからです。共鳴理論を利用すると反応の制御も予測もすることができます。