π結合(pi bond)とは隣り合う二つの原子のp軌道やd軌道などの相互作用によって生じる結合です。π結合はp軌道やd軌道の二原子間共有によって形成される結合で、二重結合や三重結合の形成にかかわっています。基本的にはσ結合による共有結合があるときにπ結合が形成されます。
π結合はσ結合に比べると軌道相互作用が弱いため、結合エネルギーは低いのが特徴です。そのため、σ結合を切断する求核置換反応などに比べると、π結合を切断する反応は侵攻しやすい性質があります。π結合のエネルギーの低さを利用して、ポリマー合成でよく用いられているのがラジカル重合です。ラジカル重合ではπ結合の切断を伴うラジカル付加反応によって重合をおこなっています。スチレンの共重合によるポリスチレンの合成は典型例です。
π結合は不飽和結合と呼ばれることもあります。二重結合に比べると三重結合のπ結合はエネルギーが低いため、エチレンに比べてアセチレンはπ反応性が高いのが特徴です。ただ、三重結合が反応した後には二重結合が残るため、高分子重合では反応制御が難しいという問題があります。そのため、高分子合成では二重結合を反応点とする合成設計がおこなわれるのが一般的になっています。