ニトロン(nitrone)とはイミンのN-オキシドあるいはオキシムのN-アルキル化体に相当する有機化合物です。ニトロンはN-アルキルヒドロキシルアミンとアルデヒドまたはケトンの脱水縮合によって合成する方法がよく用いられています。環状二級アミンのタングステン酸やm-クロロ過安息香酸による酸化反応で合成することも可能です。
ニトロンは窒素上にプラスの形式電荷があります。形式電荷が酸素上にある構造と炭素上にある構造の共鳴構造として存在する化合物です。ニトロンはイミンやカルボニル化合物と同様に求核剤による付加反応が炭素上で進行し、付加体としてオキシムを与えます。また、ニトロンは1,3-双極子としての性質を持ち、アルケンやアルキンに対して協奏的な1,3-双極子付加環化反応が進行します。ニトロン同士での分子間反応も進行するため、ニトロンは濃縮された状態では不安定な場合が多いのが特徴です。
ニトロンは農薬や医薬品、食品添加物や樹脂などにはあまり見られない構造です。熱や光に対する不安定性が製品開発をする上で問題になる場合が多いからです。しかし、有機合成のプロセスでは反応性が高いことからニトロンは中間体として活用されています。