非共有電子対(lone pair)は孤立電子対とも呼ばれる結合に関与していない電子対です。最外殻にある電子対の中で他の原子と共有されていないという意味合いで非共有電子対と呼ばれています。
非共有電子対は反応性を持つ電子対で、ルイス塩基性を持つ分子では非共有電子対を持っています。例えば、水分子では酸素原子が二組の非共有電子対を持っていて、別の水分子の水素と水素結合を形成して安定化する性質があります。アルカリ性の水溶液に存在する水酸化物イオンは3つの非共有電子対を持ち、高い求核性も持つのが特徴です。
非共有電子対を持つ分子は電子を供与できるため、金属錯体の形成にも関与します。一般的に金属錯体の中心金属はd軌道やf軌道などに空軌道を有するため、非共有電子対を持つ分子が配位子として廃位結合を形成することができるからです。陽イオンにも非共有電子対を持つ分子が配位して安定化することがあります。非共有電子対による水素結合や配位結合には方向性があるのも特徴です。被占軌道の方向にだけ電子対を供与できる性質があるため、水分子の相互作用による構造化や分子内配位によるタンパク質などの生体分子の構造形成にも非共有電子対が寄与しています。