エナンチオマー(enantiomer)とは日本語では鏡像異性体と呼ばれる一対の分子です。平面構造は同一でも、一方の立体構造を回転や平行移動させただけでは他方に重ね合わせることができない関係のときにエナンチオマーと呼びます。キラリティーを持つ分子では、一方の分子の立体構造を鏡に映したときの構造がエナンチオマーです。
エナンチオマーは化学的性質に違いはありません。しかし、物理的性質は生物学的性質には違いがあります。物理的性質として大きく異なるのが旋光度です。エナンチオマーでは先行度の絶対値は同じですが、プラスマイナスが逆転します。生物学的には酵素による認識がまったく異なる場合があります。医薬品開発ではエナンチオマーによって薬効や毒性に大きな差が見られる場合が多いので、エナンチオマーを作り分けて評価するのが主流です。香料として用いられている成分はエナンチオマーによって香りが違うことがあって使い分けられています。
ポリマー合成ではあまりエナンチオマーのある分子がモノマーとして利用されていません。一方のエナンチオマーを合成するのはコストが高くなる場合が多いからです。アミノ酸や糖などの天然物をモノマーとしている場合を除くとあまり例がありません。