双極子モーメント(dipole moment)とは二つの原子または原子団の間に生まれる電荷の偏りです。一般的な共有結合では電気陰性度が高い原子がマイナス、電気陰性度が低い原子がプラスになり、電気陰性度が高い原子の方に電子が偏ります。電子の偏りによって微小空間で原子間に生まれた分極の程度を定量化する物理量として用いられているのが双極子モーメントです。双極子モーメントは-から+の方向を正として定義するベクトル量です。例えば、炭素原子と塩素原子の結合では、炭素原子がプラス、塩素原子がマイナスに帯電します。双極子モーメントは塩素原子から炭素原子の方向に発生します。
双極子モーメントはμとしてC・mまたはD(デバイ)を単位として表記します。Qを電荷、rを距離ベクトルとしたときにμ=Q・rとして定義される物理量で、比較や評価の際にはデバイが単位としてよく用いられています。1D=3.336×10^-30C・mとして換算が可能です。
双極子モーメントのある分子は配向性を持ちます。マイナスに帯電している部分はプラスに帯電している部分と静電相互作用をするからです。強い双極子モーメントがあるときには溶液中でもクラスターになります。双極子モーメントが弱くても結晶にすると規則的な構造になりやすいため、X線結晶構造解析をしやすいのが一般的です。