アゴスティック相互作用(agostic interaction)とは遷移金属と配位子のC-H結合の間で形成される三中心二電子結合の一種です。アゴスティック相互作用は中心金属の空のd軌道に対して、C-Hのσ結合が配位する形になっています。アゴスティックとは「自分に近づく」という意味のギリシア語で、C-H結合が金属中心に近づいていく様を捉えた言葉です。
アゴスティック相互作用は近年、有機合成化学で注目されているC-H活性化反応において重要な相互作用です。C-H結合を遷移金属によって切断し、炭素に新しい官能基を導入するのがC-H活性化反応です。遷移金属がC-H結合を切断するときにはアゴスティック相互作用が起点になります。C-H結合が遷移金属に配位したときに、酸化的付加のような反応が進行する場合には結合切断を介して反応を進行させられる可能性が生まれます。
高分子合成では近年、C-H結合切断による官能基化が注目されるようになってきました。アゴスティック相互作用に着目して、モノマーやオリゴマーだけでなくポリマーの官能基化をすることも可能です。合成後のポリマーを多様に修飾できる可能性があるため、機能性ポリマーの開発方針を策定する上ではアゴスティック相互作用に着目するのが重要になっています。