原料・素材・材料

ABS樹脂プラスチックの特性特徴や強度・成形・加工・用途・耐熱温度

ABS樹脂(Acrylonitrile Butadiene Styrene/ABS)とは

ABS樹脂プラスチックは、その名の通りアクリルニトリル・ブタジエン・スチレンの3種類の石油化学製品の特徴を組み合わせ共重合させた樹脂プラスチック素材です。優れた衝撃性や剛性を持ち、塗装しなくとも表面性もきれいで、加工性も良いです。そのため、ABS樹脂はさまざまなところで使用される汎用樹脂として知られています。

たとえば、カーナビフレームや旅行用キャリーケース、冷蔵庫、洗濯機、テレビ、リモコン、ノートパソコン、プリンターなど、筐体・ハウジング部分に使用されるケースが多く、日頃多くの人に使用されています。

ABS樹脂プラスチックが頻繁に使用される理由として、ABSは物理的な耐衝撃強度と腐食性の化学物質に対しての強い耐性があります。また、機械的な加工がしやすく溶融温度が低いため、特にインジェクション成形加工や3Dプリンタでの成型加工がよく行われています。そして、接着・研磨・塗装が可能なので試作用素材として適しており、化粧板してもよく使用され、着色も容易にできます。このことが、表面光沢性のあるハウジングに使用される理由となります。価格的にもポリエチレンやポリプロピレンなどよりは高いですが、ポリカーボネートやウレタンよりは安いため、使い勝手が良い樹脂プラスチック素材と言えます。

但し、そのようなABS樹脂にも短所はあります。耐候性が弱い点やある薬品に対しては耐薬品性が劣る場合があります。しかし、ABS樹脂の弱点を補う樹脂も存在します。たとえば、ASA樹脂は耐候ABSとも呼ばれ、ブタジエンの代わりにアクリルゴムをABS樹脂に加えることにより耐候性をアップさせています。

また、ABS樹脂により強度が必要な場合は、ガラス繊維などを添加させた強化ABS樹脂プラスチックなども販売されています。

POINT

※アクリルニトリル:機械的特性、耐熱性、耐油性 に優れる
※ブタジエン:ゴム性、耐衝撃性 に優れる
※スチレン:加工性、寸法安定性、光沢性 に優れる

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ABS樹脂(ABS)の歴史

ABS樹脂(Acrylonitrile Butadiene Styrene/ABS)は、1947年にブレンド型ABS樹脂が「クララスチック」のネームではじめて工業化されました。当時はじめて工業化を行ったのは、アメリカにあるU.S.Rubberという会社のNaugatuck Chemical D.Vでした。1954年には同じくアメリカにあるMarbon Chemical社が「サイコラック」のネームでグラフト型ABSを販売し始めました。ちなみに、今はグラフトブレンド法が主流になっています。日本では1963年に海外からテクノロジーを導入し、生産を開始しました。

ABS樹脂(ABS)の化学式

(C8H8·C4H6·C3H3N)n

ABS樹脂(ABS)の製造方法

先に書いたように、製造方法は3つあり①ブレンド方法 ②グラフト方法 ③グラフトブレンド方法 があります。①ブレンド方法については、アクリロニトリルとブタジエンを組合せNBRをつくり、そのNBRとアクリルニトリルとスチレンを組合せたASを合わせ、ブレンド法によってABS樹脂を製造します。②グラフト法については、アクリルニトリルとスチレンとブタジエンを組合せてBRをつくり、グラフト法によりABS樹脂を製造します。最後に③グラフトブレンド法については、先程のASとBRをグラフトブレンド法によりABS樹脂を製造を行います。

ABS樹脂(ABS)の特長・特性

長所
  • 耐薬品性(酸、アルカリ)に優れる。但し、有機溶剤には弱い。
  • 加工性が良いため、押出し・インジェクション・ブロー・真空圧空・カレンダー成形加工が可能。また、切削、溶接、接着、印刷、ホットスタンプやメッキ、塗装などが可能です。特に金型を使った加工には、ABS樹脂プラスチックが頻繁に使用されています。そして、最近では3Dプリンタ製品でも加工性が良いためにABS樹脂が多く採用されています。
  • 寸法安定性が良く、経時変化によるサイズ変化が少ない
  • 表面光沢性が良い(外観性に優れます)。例えば、テレビ筐体でピアノブラック調の成形品を要望されるケースがありますが、ABS樹脂はその光沢感のある外観とピアノブラック色調に優れているため、塗装レスで採用されることがあります。
  • 顔料を入れることによる着色性が良い
短所
  • 耐候ABSでない限り、耐候性が良くありません。耐候性を持たせたABS樹脂を使用したい場合は、ASA樹脂をおすすめします。
  • 一般的な耐薬品性に劣る。また有機溶剤に弱い。
  • 難燃グレードでない限り、可燃性です
  • インジェクション成形においてウェルドラインが発生しやすいです。また厚肉箇所でボイドやヒケが起こりやすいです。このヒケ対策として、PC/ABS系樹脂プラスチックを使用すると解決する場合があります。




使用環境温度の特性比較

連続耐熱温度

評価:★★★★★

ABS樹脂プラスチックの連続耐熱温度は、約60〜110℃であり、あまり良い方ではありません。ポリ塩化ビニル(66~79℃)と比べると連続耐熱性で優れていますが、ポリプロピレンやポリカーボネート、ナイロン66などには劣ります。

熱変形温度

評価:★★★★

熱変形温度について、ABSは汎用プラスチックのためポリ塩化ビニルやアクリル、ポリエチレンなどと同等に熱変形温度が低いです(94~107℃)。ABS樹脂より若干熱変形温度が高いプラスチックはポリプロピレンであり、【★★★★★★★】になると、ポリアセタールやポリカーボネート、ナイロン6、ナイロン66などがあります。また【★★★★★】になると、フェノール樹脂やPEEKなどのスーパーエンプラの領域となります。

耐薬品性の特性比較 ※汎用プラ・エンプラとの比較

耐アルカリ性

評価:★★★★★

汎用プラ・エンプラの中では、ABS樹脂はポリ塩化ビニルやポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレンに比べて少し耐アルカリ性に劣ります。しかし、ナイロン66やアクリル、ポリアセタール、ポリカーボネートと比較すると優れています。また、熱硬化性樹脂のフェノール樹脂やシリコーン樹脂、ウレタン樹脂などよりも耐アルカリ性に優れています。

耐酸性

評価:★★★★

耐酸性については、汎用プラ・エンプラの中でも高い耐酸性を持っており、ポリ塩化ビニルやフェノール樹脂には劣りますが、ポリカーボネートやポリアセタール、ナイロン66には勝ります。ちょうどアクリルと同じ耐酸性を持っています。

耐有機溶剤性

評価:★★★★★

ABS樹脂は、有機溶剤に弱いです。フェノール樹脂、ウレタン樹脂、ポリアセタールやナイロン66などに劣ります。ポリカーボネートやポリスチレンには有機溶剤性に勝っています。




寸法安定性の特性比較

吸水率

評価:★★★★★

ABS樹脂の吸水率は0.1~0.8%程度であり、ポリプロピレンやポリエチレンと比べると吸水率は高いです。ABS樹脂の吸水率と同等レベルのプラスチックは、ポリ塩化ビニル(軟質)やPEEKなどがあります。また、ABS樹脂よりも吸水率が高く寸法安定性が悪い樹脂プラスチックは、ナイロン6・66やフェノール樹脂などがあります。

線膨張係数

評価:★★★★★

ABS樹脂の線膨張係数6~13×10^5/K程度です。ポリ塩化ビニル(PVC)やナイロン6・66(PA6・PA66)はABS樹脂と同レベルです。ABS樹脂に比べ線膨張係数が悪く寸法安定性に欠ける樹脂プラスチックは、ポリエチレン(PE)やポリ塩化ビニリデン(PVDC)、セルロースアセテート(CA)などがあります。また反対に、ABS樹脂より優れているものは、スチレン(AS)、アクリル樹脂(PMMA)、ポリサルフォン(PSF)、メラニン樹脂などがあります。

機械的強度特性の特性比較

引張強さ・圧縮強さ・曲げ強さ

評価:★★★★★

ABS樹脂の引張強さ・圧縮強さ・曲げ強さに関しては、ポリプロピレンやポリエチレン等より強く、反対にアクリル樹脂やポリエチレンテレフタレート、ナイロン樹脂やポリアセタール、ポリアミドイミド等に劣ります。

衝撃強さ

評価:★★★★★

ABS樹脂の衝撃強さは3.8~66Kg・cm/cmです。ABS樹脂と比べ、ポリアセタール(6.5~7.6Kg・cm/cm)やナイロン6(5.5~19.6Kg・cm/cm)、ナイロン66( 5.5~10.9Kg・cm/cm)は衝撃に強く、アクリル(1.6~2.7Kg・cm/cm)やポリスチレン(1.4~2.2Kg・cm/cm)等は衝撃に弱いです。

耐摩耗性

評価:★★★★

ABS樹脂は、耐摩耗性に弱いです。摺動用部材を選定する場合は、ABS樹脂・ポリ塩化ビニル < ナイロン樹脂・ポリアセタール < ポリフェニレンサルファイド(PPS)・PEEK の順に選定すると良いでしょう。




価格コストの比較

評価:★★★★

ABS樹脂の価格コストは、ポリプロピレンやポリエチレン、ポリ塩化ビニルよりも高いですが、ポリアセタールやポリカーボネート、ウレタン、PPSなどより安く、大体アクリル樹脂と同じぐらいの価格帯です。樹脂プラスチックの中でも比較的安い方の素材と言えます。

※上記は参考値であり、ご使用の際は必ず環境に応じたご評価を行って下さい。

ABS樹脂(ABS)の成形加工方法

押出し成形加工 / 射出インジェクション成形加工 / ブロー成形加工 / 真空成型加工 / 圧空成形加工 / カレンダー成形加工 など

ABS樹脂(ABS)の成形加工条件

項目 単位
射出成形温度 177~316
圧縮成形温度 149~230
成形収縮率 % 0.3~0.8




ABS樹脂(ABS)の基本物性表

物理的性質

項目 単位
比重 0.99~1.15
ロックウェル硬度(D785法) R30~118
吸水率 % 0.1~0.8

機械的性質

項目 単位
引張り強さ(D638/651法) Kg/㎠ 170~630
曲げ強さ(D790法) Kg/㎠ 250~950
引張弾性率(D638法) 10^4kg/㎠ 0.7~2.9
圧縮強さ(D695法) Kg/㎠ 180~770
衝撃強さ アイゾット Kg・cm/cm 3.8~66

熱的性質

項目 単位
線膨脹係数(D696法) 10^-5/℃ 6~13
熱伝導度(C177法) 10^-4cal/sec・cm/℃・cm 4.6~8.6
連続耐熱温度 60~110
熱変形温度(D648) 18.5Kg/cm^2 ℃ 94~107
燃焼性 可燃性

電気的性質

項目 単位
絶縁破壊強さ(D149法) kV/mm 12.2~16.1
体積固有抵抗 Ω/cm 10^16以上
誘電率 10^3~(D150法) 2.4~4.75

※上記データは参考値です。




ABS樹脂(ABS)の用途例

  • 電子機器などのハウジングや電化製品
  • 自動車関係のインストルメントパネルや躯体など
  • 試作品、雑貨、玩具
  • 学校で使うリコーダー楽器

ABS樹脂(ABS)の用途画像

ABS樹脂 Pellet

ABS樹脂を使ったレゴブロック

ABS樹脂原料を用いて、3Dプリンタで製作した製品

ABS樹脂が採用されているアメフトヘルメット

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