樹脂プラスチックの粘弾性は、材料が変形に対して示す粘性(流動)と弾性(変形回復)の特性を組み合わせたものです。粘弾性は、材料の特性や使用条件によって異なるため、さまざまな試験と評価方法が使用されます。以下に、樹脂プラスチックの粘弾性の主な試験・評価方法、種類、およびそれぞれに使用する機械をまとめます。
1. 動的粘弾性測定 (DMA: Dynamic Mechanical Analysis)
- 概要: 材料に動的(周期的)な変形を加え、その応答から粘弾性特性(貯蔵弾性率、損失弾性率、損失正接など)を評価します。
- 方法: 試料に振動する力を加え、応力とひずみの位相差を測定します。これにより、材料の貯蔵弾性率(E’)と損失弾性率(E”)を計算します。
- 機械: 動的粘弾性測定装置 (DMA)
- 評価項目:
- 貯蔵弾性率 (E’): 材料の弾性(エネルギーを蓄える能力)
- 損失弾性率 (E”): 材料の粘性(エネルギーを散逸する能力)
- 損失正接 (tan δ): 損失弾性率と貯蔵弾性率の比率
- 用途: ガラス転移温度の測定、温度や周波数に対する材料の粘弾性特性の評価
2. 応力緩和試験
- 概要: 一定のひずみを材料に加え、時間経過に伴う応力の減少を測定することで、粘弾性特性を評価します。
- 方法: 試料に一定の変形を与えたまま固定し、その際に発生する応力が時間とともにどのように減少するかを測定します。
- 機械: 万能試験機 (Universal Testing Machine) または専用の応力緩和試験装置
- 評価項目:
- 応力緩和時間: 応力が初期値の特定の割合に減少するまでの時間
- 応力減少率: 時間に対する応力の減少の割合
- 用途: 長期間の負荷がかかる材料の評価、シール材やゴム材料の粘弾性評価
3. クリープ試験
- 概要: 材料に一定の応力を加え、時間経過に伴うひずみの増加を測定して粘弾性特性を評価します。
- 方法: 試料に一定の力を加えて、時間とともに発生するひずみを測定します。これにより、材料の時間依存性の変形特性を評価します。
- 機械: クリープ試験機または万能試験機
- 評価項目:
- クリープひずみ: 時間に伴うひずみの増加
- クリープ率: ひずみの時間に対する増加率
- クリープ破壊時間: 材料が破断に至るまでの時間
- 用途: 長時間負荷を受ける構造材や部品の評価
4. 緩和スペクトル法
- 概要: 材料の粘弾性応答を広い周波数範囲で測定し、緩和スペクトルを得るための試験法です。
- 方法: 材料に広い周波数範囲で周期的な変形を加え、応答を測定します。データを用いて緩和スペクトルを計算します。
- 機械: 動的粘弾性測定装置 (DMA) やレオメーター (Rheometer)
- 評価項目:
- 緩和時間: 材料の応答時間の分布
- 緩和スペクトル: 緩和時間に対する粘弾性応答の分布
- 用途: 高分子材料の緩和挙動の詳細な解析、温度や周波数による材料特性の評価
5. レオメーターによる粘弾性測定
- 概要: 材料に剪断変形を加え、粘度や剪断弾性率を測定することで、粘弾性特性を評価します。
- 方法: 材料に回転または振動の力を加え、その応答を測定します。レオメーターには、回転型、コーンプレート型、平行板型などがあります。
- 機械: レオメーター (Rheometer)
- 評価項目:
- 剪断弾性率: 材料の剪断変形に対する抵抗
- 剪断粘度: 材料の流動性の指標
- 複素粘弾性率: 貯蔵弾性率と損失弾性率の和
- 用途: 高分子溶液やメルトの粘弾性特性の評価、プロセス条件の最適化
6. 温度-時間換算法
- 概要: 温度と時間の関係を利用して、材料の長期的な粘弾性挙動を予測する方法です。
- 方法: 異なる温度で得られた粘弾性データを温度-時間換算則を用いて重ね合わせ、長期間の挙動を予測します。
- 機械: 動的粘弾性測定装置 (DMA)、レオメーター (Rheometer)
- 評価項目:
- マスターカーブ: 温度と時間の関係を示す曲線
- ウィリアムズ・ランデル・フェリー(WLF)方程式: 温度-時間換算則の一例
- 用途: 高分子材料の長期耐久性の評価、設計寿命の予測
7. フォークト・マックスウェルモデル
- 概要: 粘弾性体を理想的なバネ(弾性体)とダッシュポット(粘性体)の組み合わせとしてモデル化し、材料の粘弾性挙動を評価します。
- 方法: 材料の応力-ひずみ関係を解析して、フォークトモデル(並列)やマックスウェルモデル(直列)にフィッティングします。
- 機械: 動的粘弾性測定装置 (DMA)、レオメーター (Rheometer)
- 評価項目:
- 弾性定数: バネ定数
- 粘性定数: ダッシュポットの粘性
- 用途: 高分子材料の粘弾性特性のモデリングとシミュレーション
まとめ
樹脂プラスチックの粘弾性評価には、動的粘弾性測定 (DMA) や レオメーターによる粘弾性測定 などの多様な試験方法が使用されます。各試験方法は、材料の特性(例えば、温度、時間、周波数の変化に対する応答)を評価するために適しており、用途に応じて選択されます。これらの試験により、材料の使用環境での性能を予測し、最適な材料選定や設計に役立てることができます。